鬼画島 / 寺田克也

子供のころに出会った昔話では、鬼はたいてい悪者と決まっていた。だが、ちょっと待ってほしい。人に人権があるように、鬼にも鬼権があるはずだ。多様性重視のこの時代、いつまでもあんなガキと動物に、やすやすと殺されていていいわけがない。正義のありかはどこにある? そもそも鬼って何だ⁉ 寺田克也が絵とエッセイでくりひろげるシュールな冒険譚。描かれるのは福音書か、それとも黙示録か?

「ずっと探してます」

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「鬼画を描く」

 鬼を探している。
 この連載が始まってから鬼を探している。が、そうカンタンには見つかってくれない。いや、世間には鬼たちが跋扈しているようなのだ。マンガにアニメに鬼は跳梁している。動画配信の雄、Netflixでもその名もずばり「ONI」というシリーズが好評を博していたりする。いまだに人気のあるマンガとしては「鬼滅の刃」があるし、「グラップラー刃牙」から続く「バキ道」においても、背中に「オーガ(鬼)」の面相を呈する超絶背筋を持つ男がいまだその世界観の中で最強だ。
 鬼は世界に今もいる。いるのに、この連載ではみつからない。みつからないがひたすら「鬼画」を描き続ける事でたちあがってくる鬼を期待しているのだった。

 そんなわけで今回は3枚の「鬼画」を描いてみた。
 3人の鬼が登場する。いや、鬼の数え方を「人」としていいのかどうかは知らないが。
 本心は絵に言葉は極力添えず、そこから自由に物語なり世界なりを受け取って欲しいと願うものではあるので、やや忸怩たるものがあるのだが3つの「鬼画」にそれぞれ背景説明をつけてみた。もちろん本来は観ていただくそれぞれの人がストーリーを思い浮かべていただくのがうれしい。なにより描いた本人がペンを動かす時は、浮かんでくるぼやけた鬼の姿を追いかけながら、ほぼなにも考えて描いていない。したがってこれから綴る言葉は蛇足であり、押しつけでもあり、探り探りのスケッチのようなものだ。

 1枚目は金棒を持つ片角の鬼の絵だ。どこかの電器量販店の社員が売り場で着ているような青いジャケットを着て、赤のネクタイを締めている。パンツは細身のストレッチ素材だ。靴はカーフスキンのチャッカーブーツ。ソールが右足だけ多めにすり減っている。
 髪は七三に撫でつけられていて、ややくたびれた感じで乱れている。元々がくせっ毛なので朝、ていねいにセットをしても、午後には崩れてしまうタイプ。左手で力なく握った金棒は、一見して平均的な人間であれば持ち上げることすら難しいほどの重量があるのが見て取れるが、まるで小学生が金属バットを引きずっているような感じでズリズリと扱っている。重そうには持っていないが、気怠く。
 額の角に注目して欲しい。右の角は浮いている。なんらかで発生した力場に支えられ10センチほどの距離を保って鬼の頭部からまっすぐにある。そして片方の角がない。気づかないうちになにかの拍子に無くしてしまった。赤焼けしたおでこの、その部分だけ生白い肌が弱々しい。ジャケットの鬼はその事で酷く気落ちしている。生きる意味もない人間を見つけて金棒で叩き潰す役目を意気揚々とやってきたのに、その務めを果たす以前にじぶんの角を失した。鬼として面目が丸つぶれなのだ。それでとぼとぼと街角を歩いている。いつもは軽い金棒も今日は重い。ズリズリ。ズリズリ。

 2枚目。踊る鬼。それは踊る鬼だ。何故踊るのか?それは鬼にもわからない。だが肉の裡から込み上げる衝動にカラダが反応するのだ。腕を振る。その勢いを借りて半身を回す。また腕を振り出す。動きが動きを呼び、鼓動に合わせてリズムが生まれる。鬼の舞だ。いつしか鬼は笑っている。牙をむき出して笑っている。鬼の昂揚感が大気を震わせ、大地に歌が刻まれていく。鬼はひたすらに踊っている。踊りの果てのなにかを探している。


 3枚目は、独角の鬼。一見して角には見えない。頭頂部の皮膚が盛り上がっているだけのように見えるが、その内側には鬼の角がにょっきりと生えている。古い時代の人間はこの鬼を見て、七福神の一人であるところの福禄寿と見間違えたかも知れない。ありがたく手を合わせたりしたかもしれないし、もしかしたら福禄寿はもともと独角の鬼なのかもしれない。
 相棒の鶴の頭を持つ犬「ツヌ」と連れだって、そのあたりにわだかまっている瘴気のようなものを集めてまわっている。世の中に漏れ出してしまった地獄の大気とも言うべきものが、人間界では瘴気とされて、悪しき病などをもたらしており、それを回収して本来あるべき鬼の地獄に戻すのが独角の鬼の役目なのだ。捕まえた瘴気は小鬼の姿になり、独角の鬼から離れない。彼ら、瘴気の小鬼も故郷に戻りたいのだ。ツヌは時折欲望に負けて傍らを駆け回る小鬼をぺろり食べてしまう。鬼は叱るでもなく高らかに笑いながら、また瘴気を探しに出かける。

 

 

 

 

 

 

*本連載は、初回と最新2回分のみ閲覧できます。