シジュウカツ! フリーライター藤谷さん40歳の『〇〇活』記 / 藤谷千明

「婚活」、「就活」、「朝活」、「涙活」……。世の中に存在するさまざまな活動を40歳になったフリーライターが自ら体験し考察する。最近始めた活動や幼いころから今に至るまで続けていること。それらすべてを通して、新しく見えてきたものとは……? ジャンルや枠組みに囚われず、日々を活発的に過ごす著者がおくる実体験型エッセイ。

ママ活

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他人の青年

 ママ活を持ちかけられました。

 遡ること2019年、オタク4人のルームシェア生活も安定してきたところ、突発的に「彼氏が欲しいよ〜っていうか、素敵なデートをしたいよ〜!」と思い立ち、年単位で放置していたマッチングアプリに再ログインすることにしました。ここでいう「彼氏」とはなにか、「結婚を前提としたお付き合い」じゃない、なんかお互い暇なときにいい感じに遊んでくれるやつ……くらいの意味です。とくに年齢は制限していないので、対象年齢は「25~100歳」に設定していました。さすがに70代以上は見たことありませんが……。なお、100歳は逆にネタで設定している人がいます。面白いのか、それ。

 40代の婚活はしんどいといいますが、反対にそういう曖昧な感じの相手を見つけるのもまた難しいというか。なかなかマッチしない、しても既婚者。さすがに民事訴訟リスクは背負いたくないよ~。偶然同じアプリを利用していた同年代の友人から「■■■■ってアプリにいる? (中略)そのプロフィール、セフレ募集だと思われるのでは、あるいは不倫」というご指摘のLINEが届きました。「頻繁に会うよりは、たまに遊んでくれる人希望」みたいな文面だったんですけど。うーむむ、やっぱり不倫と思われちゃうのか……。「結婚を前提とせず、頻繁に会うわけでもない関係」を求めているだけなのですが、とはいえそれは客観的にみると「セ……」の方のフレンドととられる可能性はありますわな。しかしそうなると「彼氏」と「セ……フレンド」の違いってなんだ?(これは今回のテーマと外れるからまた今度!) 

 くだんの友人のプロフィール文もチェックしたところ、あっちはあっちでスタイリッシュすぎるテキストとお写真だったので「オシャレすぎて一周回って怖い、パパ活っぽい」とディスッ……ではなくアドバイスをし、「お互い頑張ろうな」と励ましあい、自分のプロフィールには「既婚者NG」と加筆しました。


 ノンジャンルでやっている(つもりの)フリーライターなので、カップル成立しなくても、いろんな世代の人の話を聞けるし、仕事のヒントになるかも……という「逃げ」の動機もありつつ(なんでも、しくじってもネタになるかも……に回収してしまうのは悪い癖)、何人かとお茶をしてみたわけです。で、冒頭の「活」を持ちかけてきたのが20代の青年でした。思わず「?」という顔をしてしまうと、「あ~、そういう目的じゃなかったんですか?」と青年。

 「そういう」……、いわゆる「パパ」の方の活動は、たまにホテルや繁華街の喫茶店などで仕事をしていると、親子でも、仕事関係でも、カップルでもない、それと思しき、男女ペアは見かけるんですよ(違ったらすみません)。意気揚々とトークを開陳するパパと、音ゲーみたいに相槌打ってる活動者。もう一回遊べるドン! たしかに、今、私と青年のこの構図、客観的に見たら男女逆ですが「そう」見えるのかもしれない。たしかに私のプロフィール文、彼氏でも不倫でもセフレでもなければ「ママ活希望者」とジャッジされる可能性は考慮していなかった。オイオイ知人のプロフィールにダメ出してる場合じゃない。拙者、たしかに「遊びたい」と申したものの、お金を入れて遊べるドンだと、倫理的に不安になっちゃうドン。しかし逆に考えたら、40代の中年とは金をもらわないと一秒たりとも過ごしたくないという感覚も想像はつきます。Twitterでよく若い女性がおじさんに言っているやつ。まさか自分に刺さってくるとは……。でもそれは最初から言ってほしかった、それがお互いのため。活動者のみなさんへ、自分の要望は最初のメッセージでご連絡ください。あと既婚者もな。中年からのお願いです。

 「キャッシュレスだから手持ちの現金がない」と謎の理由でお断りし、踵を返しそのまま改札を通過し電車へ乗り込みふうっと一息。「こういうことって、あるんだな……。ああ、これはネタになるかも……」ほ~ら、悪い癖が出た。といいつつ、日々の生活や仕事をこなしているうちに、思いつきレベルの「ネタ」は、忘却の彼方へと四散していました。


 そして2020年、本格的にやってきました新型コロナウイルス。ライブ開催や映画公開の中止、延期が決まり、おのずとエンタメ関連の仕事は減ってしまい、今でこそ在宅でオンラインインタビューも当たり前になりましたが、当時は「あらやだ~、仕事がねえ~」という状況に。ここぞとばかりにルームシェアエッセイ本の企画を提出するなど、できることはやっていたものの、直近でお金が入ってくるタイプの仕事もほしいなあ……。ああ、今こそあの「ママ活」を取材してみるのはどうだろう……。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響、いわゆる「コロナ禍」において、女性の貧困が加速し、とくに若い女性が、いわゆる「夜職」や「パパ活」をする話は、男性向けのビジネス媒体などでセンセーショナルにとりあげられていましたし、深夜ラジオで芸人さんが「新型コロナウイルスが開けたら可愛い女性が風俗で働くはず」といった趣旨の発言をしたことも批判を浴びました。一方で夜の街、ホストクラブという場所がやり玉にあがり、それに反論する記事も見かけましたが、男性個人が困窮しているケースにフォーカスしたものは少なかったように感じました。

 「ママ活」で検索すると、数年前にTwitterを通じて「ママ」を募集しようとした未成年が補導されたニュースがみつかったものの、ほかは「芸能人の○○くん似のイケメンとホテルへ……」的な、「さいたまのおっさん」1が書いてるんちゃうか? 的な記事ばかり。つまり「エッチな女性の言動を見て楽しむ」タイプのものですね。なんとなくこれは実情と沿っていない気がする(霊感)。「この世に存在しているのだけど、まだ認知されていない現象」を引っ張り出してみたい。これは物書きをやっている人間は誰もが持っている欲求ではないでしょうか。こういった事案を世の中に問うことで、救済策ができるかもしれないという期待もありますし、「コロナ禍でママ活をしている男性」の記事は、言い方は悪いけど「(数字が)ハネるのでは」という下世話な野心も正直ありました。懇意にしている編集さんに連絡したところ「やりましょう」と意気投合。

 そして「そうだとは名言してないけどあきらかにそっち需要のアプリ」をダウンロードし、サクッと登録。しばらくしたら、ぼちぼち「イイネ」がつきはじめました。このアプリは大学のメールアドレスを登録するとプロフィールに学校名が表示されるそうで、東大や早慶などの有名どころはもちろんのこと、変わったところだと防衛大学の人もいました。防大はお給料出るのに……。こういうとこまで学歴重視なのか、これもまたジェンダーの不均衡なのかしら。なお、最近ログインしてみたところ、さすがに問題があったのか、現在はこのシステムはなくなっていましたが。

 男性陣のプロフィールの文言は「年上女性との出会いが欲しいです」「社会勉強のために登録しました!」といったものから、「ママ募集してます!」までさまざまでした。なお皆さん自撮りが上手い。写真アプリでの加工もこなれているし。つまり「見られる」ことを意識して、対策ができているということ。アラサー世代より上の男性はこの対策ができていないことが多い中、ただ、対策ができているから「良い」のではなく、今回はとくに、全員が全員ではないとはいえ「ママ募集」ゆえの美意識の高さなわけですから……。

 編集氏と相談した結果、こちらの素性を伏せてあとで揉めるよりは、最初から取材であることを伝えたほうがいいと判断し、最初の方で自分がライターであること、取材は編集者と同席するというメッセージを送ることに。「さすがに取材は……」と訝しがる人も当然ながらいたけれど、結構早い段階で取材を了承してくれる人があらわれました。

 待ち合わせ場所にやってきた青年は、金銭事情なのか、髪の毛は伸ばしっぱなしでユニクロ的な服装でしたが、客観的に見て「整った」容姿を持っていました。彼いわく、コロナ禍の影響でアルバイトをクビになってしまった。過去に芸能活動をしていたので、その頃の伝手つてもあって、「ママ」と会って食事をしたり、話を聞いたりすることで、都度数万円のお小遣いをもらっているとのことでした。

 ……絵に描いたようなケースに当たってしまった。全部ウソかもしれないけど(それはそれですごい役者だということなので、こちらとしてはいい経験だった気がする……)。あまりにも「できすぎ」ていたので、アプリを通してさらに取材対象を探すことにしました。

 「“社会勉強”をしたいから、色々な人に会ってみたい」という起業志望の人や、生活には困窮していないけど「洋服がほしいからお金が必要」みたいな人、ほかには「友達がやっていたから……」という動機の人に会いました。彼らいわく、「モデルのスカウトされるくらいのルックスだけど芸能活動をしていない、そういうタイプが1番ママ活でうまくやってる」のだそう。あるいは、ママ活のつもりが美人局つつもたせにひっかかってしまったのを、さも笑い話のように話してこっちが心配になったこともありました。身体の関係はあったりなかったり。そして「ママ」側の動機を尋ねると(彼らに聞くのも変な話なのですが)、皆決まって同じことを口にしていました。「“他にお金を使うこともないから”と言ってる」と。繰り返すけれど、皆が本当のことを言っているかどうかはわかりませんが……。

 そんなふうに「取材」と称し、謝礼を渡して話を聞いているうちに、「結局これはママ活とほぼ変わらないのでは?」という疑問がわいてきました。なお最初の人以外は記事になるかどうかわからないというか、ほぼ勝手な判断でやっていたので、謝礼は自費です。

 そう思うようになったのは、ひとりの学生がきっかけでした。大抵は一度の取材でおしまいなのですが、妙に懐いてきたその彼とはLINEなどでもやりとりするようになっていき(この時点でちょっと良くない)、だんだん身の上話や相談ごとをするようになり、それがだんだんシャレにならない話になっていったのです。どのくらいシャレにならないかというと真鍋昌平先生の『九条の大罪』の話の導入とかに出てきそうな感じのギルティー……。これはさすがに私の手に余る! そして私ができることというと、「記事にして世に問う」くらいしかない。たしかに書いたら話題になるし、書きたいか書きたくないかというとそりゃ後者。本人のためにならない気がします。


 お金を渡して相手のサムシングを引き出すという意味では、パパ活・ママ活で出会う中年とどう違うのか? 彼らにとっては「話をして対価をもらう」という意味では同じではないか? 物書きの欲求である「書きたい」と「ヤリたい」にどこまで差があるんだろう? とくに立場の弱い人を取り上げる記事の場合、取材対象と書き手の力は対等と呼べない場合のほうが多いでしょうし。書き手側のエゴによって強引に「書かれた」結果、取材された側が傷つくことも予想できる。弱い立場の人を書き手が「消費」しているという可能性も否めない。彼らを福祉につなぐにも、相手もこちらに必要以上の個人情報を知られたくはないでしょうし、せいぜい行政のサイトのURLを送る程度しかできない。世の中の問題にスポットを当てることで、社会が動くこともある、それは本当にそう。でも社会が動いても個人に届くまでは時間がかかる。それなら文筆よりは福祉の方面に進んだほうがいいかもしれません。

 ……などなど、いろいろと考えあぐねてしまい、その後最初の青年に関する記事をひとつ出して以降はなにも進められていないのです。

 なお、記事の反響としては、サイトそのものの数字はそこまでではないけれど、私がTwitter上で告知したときのインプレッションは当時のフォロワーの数と同じくらいのアクセス数がありました。実際直接の知人数名に「面白かった、藤谷さん“こんなこと”もやるんですね!」というご意見もいくつかいただきました。あっ、これは「私」も「消費」されているということですね。


 溯ること四半世紀、90年代ど真ん中、世間が「女子高生ブーム」で盛り上がったり、「援助交際」報道に揺れていた頃。といってもあの頃は、都会の流行りが田舎に届くまで数年のタイムラグがあったので、正確にいえば世間というより「テレビや新聞の中」ですが。メディアの中にはコギャルがいたものの、まだ周囲の「イケてる」とされる子はギャルではなくヤンキーで、地元では髪の毛の色を明るくすることは「ブリーチ」ではなく「脱色」と呼んでいました。年齢をごまかして水商売をしている子はいても、援助交際をしている子は見たことがありませんでした。シンプルに私が暮らしていたのは過疎地ということもありますが。「悪いことをしている子たちと私を一緒にしてほしくない」ではなく、文字通りの「別世界」のように感じていました。

 なのに、単に「現在進行系の高校生の女」というだけで、「援助交際とか流行ってるの?」と十把一絡げに興味本位の「心配」をぶつけてくる大人もいて、「ふつうに気持ち悪いな」と思っていました。そして、本屋さんにいくと「現役女子高生作家が描くリアル」な小説が並んでいて、性格が悪いので「私の周りの“イケてる”子たちは、みんな遊ぶのに忙しいけど……。小説を書く暇なんかあるのだろうか……」と訝しんでいたら、数年後ネットサーフィンしていた際、偶然「あの女子高生作家はルポライターの別名義」という噂を目にし、「どうしてわざわざそんなことするんだろう」と思いました。実際に援助交際をしている人たち(女の子とおじさん)よりも、メディアの中の学者さんや記者さんのことが不思議でなりませんでした。きっとそれは、おじさんと女の子はどっかで知らない見えないところで勝手にしてくれと思っていて(その是非を問うのは法律の仕事で私のやることではない)当時は想像力が働いておらず、その一方でメディアは「女子高生」と十把一絡げにしてくるので、自分も勝手に記号として「消費」されているような感覚があって、それにムカついていたんだろうな。これもきっとメディア側の「欲」ですね。他者の欲を十把一絡げにおもしろおかしくしたいというメディアの欲。

 私自身が筆をとるようになり、あんなにムカついていた、メディア側の「欲」を持つようになったということですね。と考えると、やっぱり筆が止まってしまうんですよ。これは単に、私がこの手の取材に向いてなかった、というだけの話なんですが。

 

 

 

*本連載は、初回と最新2回分のみ閲覧できます。

  1. さいたまのおっさん:かつて匿名掲示板に、女性のふりをしてエッチなことを書いていた中年男性がいたことから、それっぽい記事を指すネットスラング化。なお最近使っている人はほぼ見ない。