シジュウカツ! フリーライター藤谷さん40歳の『〇〇活』記 / 藤谷千明

「婚活」、「就活」、「朝活」、「涙活」……。世の中に存在するさまざまな活動を40歳になったフリーライターが自ら体験し考察する。最近始めた活動や幼いころから今に至るまで続けていること。それらすべてを通して、新しく見えてきたものとは……? ジャンルや枠組みに囚われず、日々を活発的に過ごす著者がおくる実体験型エッセイ。

生活(2)

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見せる「生活」と対SNSシャドーボクシング

 ある日、パパから50万円が振り込まれていました。

 ええ、そりゃ実父の話ですよ。
 子供のいない親戚の遺産を相続した父が、我々娘たちに分配したって話なのです。ロクに事前連絡がなかったので、軽く引きました。まあ、ウチの父はいつもそうなので。

父親と私のLINEのやりとりは、だいたい1行以内に収まります

 父は、行動が総じて「自分」と「家族」を同一化しがちというか、「自分が大丈夫なら、(とくに根拠はないが)家族も大丈夫だろう」という考えに基づいている人間としか思えないですよね。つまり、連絡事項に関しても基本的に自己と家族の境界が曖昧で「急に50万円振り込んでくる」ムーブに繋がってくるわけなんです

 象徴的なエピソードとして、小学校の運動会で「親子二人三脚」をやることになり、当然父と二人三脚することになったのですが、父はスタートとともにダッシュしたので、二人三脚ではなく、成人男性が小学生を足にくくりつけた全力疾走という競技が勝手に開催され、私はズサーーーーーッと3メートルくらい引き回しの刑状態になったのをよく覚えています。ちなみにうちの父は競技名は伏せますが、国体とインターハイで優勝しています。今の時代、すぐ検索で出ちゃいますからね……。

 ついでに、人生そのものをスポーツマンシップにのっとって正々堂々と戦う傾向があり、その結果「上司と意見が対立した」くらいの理由で10回くらい仕事を辞めてきたり、育ち盛りの子供を抱えておきながら後輩だかの借金の連帯保証人になるというハイリスク行為に及んだりしていました。たしか後輩は飛んだはず。あーあ。この辺の話は全部記憶で書いてますけど、他にもそういうエピソードには事欠かないので、細かな事実誤認はあってもだいたいこんな感じだったと記憶しています。


 初っ端から親の悪口になってしまいましたが、全体的に悪い人ではないというか「人はいい」んですよ、まあ「人がいい」人間が「いい親」とは限らないということを身をもって教えてくれた人でもありました。母ですか? 小言をこぼしながらもそれについていく人ですね。やっぱり「人がいい」ですね、私は真似したくありませんが。ただ「思い込んだら周囲のことはあまり気にしない」性質は似ているな……とは思うので、今後の人生で子供を足にくくりつけての全力疾走はしないようにしたいですね。「親子二人三脚」自体、する予定はなさそうですが。

 現在父は60代後半になり、さすがに最近はその手のおもしろハイリスク行為も鳴りを潜め(てくれないと困る)、面倒見のよさや人のよさ故に周囲に人が集まってくるようで、地域の自治会の会長をやるなど、それなりに楽しそうな老後を過ごしているようでなによりです。そんな面倒見のよさから親戚の終活もみていた結果、私の口座に50万円振り込まれているわけですし。まあ正直10代の頃、家に金がなくて色々なことを諦めた経験(例・進学)は今でも軽く根に持っているので、「50万でチャラになると思うなよ」という気持ちも湧いてきます。何十年経っても残ってるもんですな。

 さて、この50万円、どんなことに使いましょ。まっとうな大人であれば貯金あるいは全世界株式の投資信託1とかにつっこむべきですが、親に対する微妙に屈折した感情が邪魔をするわけですよ。なんかまともに貯めたくはない。とはいえ無駄使いはしたくないものの、できるだけ変な使い方をしたい。

 ……仕事部屋でも借りるか、ワンルームを。


 私は前回説明したとおり、約2年半前からアラフォーのオタク4人でルームシェアをしています。「みんな仕事や推し事で地方行くことも多いし、ずっと家にいるわけじゃないから、人が多いことはストレスにならないのでは」と思っていたけれど、2020年以降めっちゃおる。リモートワークでめっちゃおるでな! 新型コロナウイルスの影響やそれにまつわる政治不安、経済不安……数え切れない不安があるなか家に人がいることの安心感は半端ないものの、逆に家に人がいると集中できない作業もあるじゃないですか。それに夜中にガサゴソ仕事してると寝てる人に悪いし。なお近所にコワーキングスペースやシェアオフィスはありません。で、以前はそういうときは24時間営業のファミレスに行っていたのですが、それも時短営業でむずかしい昨今。何が「まんぼう」だ、漫画喫茶か。

 そんなこんなで、むこう1年は時短営業のままと想定した場合、もう外に作業部屋を借りるのがベターなのでは? と、この半年くらい考えていたところに突然の50万円ですよ。ついで同時期にエッセイ本の電子書籍の印税も振り込まれていました。読者のみなさんありがとうございます。これで予算にはかなり余裕ができました。なお私の家の近所は学生街なので単身者用ワンルームアパートが乱立しており、しかもリモート授業が続いているのが原因で学生が引き払っているせいなのか物件がダブついているようで、SUUMOを眺めていたら、格安部屋がゴロゴロしていました。家から徒歩5分くらいの場所に4.5万円1K部屋を発見。築年数は古いけど中はわりときれい、しかもロフト付き。ああこれはもう「機運」やね。SUUMO経由で不動産業者に連絡して内見して速攻申し込んだところサクッと審査も降り2、はれて入居となりました。

 思いっきり賃貸DIYとかした~い、あるいは動画撮影もしちゃおっかな~。新居に入居するというイベントは何度やっても楽しいものです。今回は引っ越しではないので、荷物の梱包などのめんどくさい作業もなく、好きなものを買うだけでOK。楽天お買い物マラソンで壁紙などの賃貸DIYグッズを購入し、ルンルン気分(死語)でお部屋を改造していました。そして早速テスト的にその模様をツイキャスで配信していたとき、こんなコメントがつきました。

 「自営業者は給付金3で余裕があるんですね」

 オウ。「思っていてもそれは言うなしかも個人事業主への支援金は昨年と比べて50%収入が減ってないと降りないので支援金は余裕がない人がもらうんだよつまり君の認識は間違っているクソコメントランキング2021(長い)」、早くもナンバーワン確定おめでとうございます。特典はとくにないです。さすがの私もネット用語でいうところの「顔真っ赤」ですよ。しかし「親からもらった金だ!」と言い返すのも、なんだか人として間違っている気がしたので、「それは他の人に言うなよ、あとネタにさせてもらうからな!」と強めにお返事しました。というわけでネタにさせてもらいました。

そんなこんなで借りたワンルームの近況です

 しかしインターネットを通して他人の「生活」が見えやすくなった現代、YouTubeでもInstagramでもTwitterででも「生活」についての情報は人気コンテンツです。他人のそれに対して感じた疑問をぶつけるのは、今や自然なことなのでしょう。自分の想定している「ストーリー」と現実がそぐわない場合は悪として、迷わず相手に意見する人も多いのかもしれないでしょう。人気のInstagrammerやYouTuberのコメント欄をみると、「手取り十数万円っていってるわりには家電が高価。彼氏に買ってもらったの?」「家計簿を公開してるけど、YouTubeの収益は入ってませんよね?」などのコメントは枚挙にいとまがありません。ふつうに失礼やないか。

 「生活」をコンテンツ化すると、このような視線にさらされるリスクがあるわけです。もちろん、私自身もさすがにコメント欄に書き込むまでいかないものの、人様の生活コンテンツに色んな感情を持つことは珍しくないですし、ツッコミ待ち前提の生活コンテンツを発信している人だっているでしょう。「生活を見たい」という欲求同様、「生活を見せたい」「生活を見られたい」という欲求もある。それを全部ひっ含めて「生活」のコンテンツ化なんですよね。

 そんな「見る/見られる」の欲望の最前線ことYouTubeでは、生活というか人生を動画にする人が老若男女問わず溢れかえっています。昔だったらアメブロで公開されていたようなほのぼの子育てエピソードから泥沼熟年離婚劇なども、いまは動画にする人が多いようで、何十万、下手すると100万再生されているわけです。広い意味ではエッセイの動画化ですよね。もはや文字でやってる場合じゃないのかもしれない。廃業の危機!

 さらに生活をコンテンツ化している人たちを観察する過程で気がついたのですが、人生や生活の変化があると、そこに説明が必要になってくるんですよね。ミニマリストYouTuberが「ミニマリスト生活、やっぱ無理でした」という動画をあげていたり、節約インフルエンサーが動画の収益について弁解のような説明をしている様を見たことあります。考えたら当たり前なのですが。こないだも、仕事場を借りたときに本連載の担当編集のK氏から「昨年出したエッセイ本で藤谷さんは、節約のためにルームシェアをしていたと書いてましたが、お部屋借りるんですか?」とたずねられました。そりゃ当然の疑問だ。「先述した理由のとおりですよ」と簡単に説明できることならいいのですが、人生には説明しにくい、説明できないことが起きる場合もありますし。


 貧乏だったりモテなかったり、自身の不遇さをネタにしていたタレントさんが成功をおさめた場合、その「成功」自体を自身の物語にどのように組み込むか、折り合いをつけていくかが問われがちですし、そもそも古くから物書きは「幸せになったらつまんなくなる」とも言われます。大きなお世話やんけ。それはともかく、実際に「つまんなくなる」というよりは、読者がこれまで考えてきたストーリーを共有できなくなるからなのかもしれないですね。

 タレントや物書きに限らず、この大SNS時代は1億総発信者時代です。YouTubeの視聴者、TwitterやInstagramのフォロワー、そしてテキストの読者、誰もが発信者であると同時に、誰もがオーディエンスの世の中です。自分自身が「誰かの人生」の情報を受け止めるオーディエンス側の場合は、なにか大きな変化があると「えっ前回までと違うじゃん」となりますよね。そうすると、自分自身でなにかを発信し続けている場合でも、オーディエンスとしての自分が、コンテンツ発信者の自分を監視してるような状態になることってありません? 私はわりとあるのですが。インターネットシャドーボクシング状態です。そうなると、自分自身もだんだん筋書きを意識しますし、現にこの連載も「あと10回分、どう矛盾なく書くかな……」みたいなことを考え始めています。自分自身の手綱は、自分自身で握っていることを意識しないと、あっという間に「なにか(誰かではなく)」の手に渡ってしまうような感覚があります。そこに対して意識的にあれる書き手でありたい、と思うのでした。

 それに、この視線、自分だけじゃなくて、自分が応援している人間やキャラクター、それにまつわるコンテンツ、つまりは「推し」にも注いでるなと……。というわけで、次回は「推し活」を予定しています。がんばるぞ!

*本連載は、初回と最新2回分のみ閲覧できます。

  1. 全世界株式の投資信託:「初心者はだいたいこれに投資しとけばいいよ〜」といわれるやつ。私も万年初心者なのでこれを約2年毎月積み立てています。今はプラス20%くらいですが今後どうなることやら……。
  2. サクッと審査も降り:一方、ルームシェアの審査はすごく時間がかかりました。そもそもワンルームと一軒家の家賃の金額の違いもありますが、やはり世の中はまだまだルームシェアには厳しいのかもしれないな……と思いました。
  3. 給付金:新型コロナウイルスやそれに伴う自粛の影響で、収入が減った企業や個人事業主に向けた色々な制度があります。飲食店に対しての感染拡大防止協力金や、2020年の持続化給付金、今年の一時支援金・月次支援金が代表的な例でしょうか。昨年よりも同じ月の収入が半減した場合、個人事業主は持続化給付金は最大で100万円、一時支援金は最大30万円給付されます(法人は倍額)。急を要していたため、審査が比較的甘く、数多の不正受給報道もあったためか、すべてを目の敵にしているひともいらっしゃる模様。使えるセーフティネットは素直に使ったほうがいいと思いますけどね……。