スノードーム / 香山哲

ある雑貨店の片隅に、古いスノードームが佇んでいる。 その中に住む者たちは、不安に駆られ、終末についての噂を交わしていた。 天空に、ある不穏な兆しがあらわれたのだ。 果たして「その時」は本当にやってくるのか? それはどんな風にやってくるのか?  小さな小さな世界の中で、静かに近づいてくる終末の記録。

模様替え

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 似たような日が続き、過ぎていった。店の客はまばらで、天気が良い日にすこし多くなる程度だった。客が少ない時間帯に、店主はよく木製の床にモップをかけた。扉や窓をしばらく開けっ放しにして乾燥させる。湿った床が、比較的すぐに乾いて元の見た目に戻る。店主はこの速度を実感するのが気に入っているようだった。



 店の中で何か出来事が起こるのは、あいかわらず1週間のうち1日か2日ぐらいしかなかった。それも、久々に来た客と店主が話し込んだりする程度のことだった。



 変化の少ない日々の中で異変と呼べることと言えば、店主が小さな模様替えをしていたことだ。レジの近くに何年も置かれたままで、売り物なのか何なのか分からない物品がまとめられた箱などを、気まぐれに1つだけ片付けたりしていた。そんなことは滅多にしていなかったが、ここ数週間で何度かおこなっていた。



 店全体の景色としてはほとんど変わらないままだったので、ごく一部の客が気づいただけだった。それでも、何年も放置されていたものが動かされたり処分されているのは事実だ。他人事ではない気持ちでしばらく様子を見ていたが、やはり店全体を今すぐ変えていこうとするような雰囲気ではなかった。



 どんな小さな店でも、結構な数のものが置かれている。「コーナー」とまでは呼べないような小さな区画にまとめられた服たちでも、数えると50を超えたりする。100の絵本、30のカップ、25の腕時計、18の電器、それぞれまとめて置かれた小さな区画が、壁に沿って並んでいる。それなりにたくさんの物品が長い時間をかけてここに集まって、入れ替わりながら、この店の景色ができあがっている。



 だから、店主が通常営業をこなしながら、余った時間で模様替えをしようとしてみても、小規模なものでとどまるのは自然だった。店を維持するためには、毎日決まった時間にシャッターを開けて、店主自身も人前に出られる状態になっていなくてはいけない。開店している間には、不審な人が入ってきていないか、客が商品を落として壊さないかなど、注意力を使うことも多い。店主を見ていると、店を開けているだけでもそれなりに疲れるんだろうなということが分かる。



 しかもこの店は、オープンしてから長い年月が経っている。オープン当初から色々な時期を経て、現状がある。いま店主が優先させているのは、この店という場を安定的に維持することで、特別なことや変化させることではないように見える。だから模様替えが小規模に終わることは自然に思えたし、模様替えがすこしでも実行されたことは興味深かった。



 根拠のない推測だけど、サバイバルクラブの学生たちの存在も、今回の模様替えのきっかけになっていたんじゃないかと思う。学生たちは世代的にも店主と離れていて、店主は学生たちに「安いコピー」という形で頼られている。多くはないが会話もしているし、なんとなく、こういう交流があると「もっといい店だと思ってもらいたい」という気持ちも店主に生じるんじゃないかと思う。