スノードーム / 香山哲

ある雑貨店の片隅に、古いスノードームが佇んでいる。 その中に住む者たちは、不安に駆られ、終末についての噂を交わしていた。 天空に、ある不穏な兆しがあらわれたのだ。 果たして「その時」は本当にやってくるのか? それはどんな風にやってくるのか?  小さな小さな世界の中で、静かに近づいてくる終末の記録。

起こってもおかしくないこと

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「このまま店主が片付けや改装を続けて、この棚にも近々何か変化が起こるかな」。マーズが期待感を示した。それに対してシフトは「いや、この程度の活発さだと、せいぜいレジ周りの物が片付くだけで終わるんじゃないか」と言った。


 たしかに誰でも、何かをやり始めると、それで勢いがついて次々似たようなことを発展させていきたくなることもある。だけど逆に、やり始めても、小さな区切りがついたとたんに、なんとなくやり遂げた感覚になって終わることもある。「ああ見えて店主は細かく色々やることがあるからな……」。カルラはシフトに近い印象を持ったようだった。


「そうだね」と自分も言った。今まで店主を見てきて、あまりこの人は店の売上をどんどん上げていこうとか、もっと便利な店を目指そうとか、そういうことを考えているようには思えなかった。むしろ店主は店のことを、十分に完成されたものだと思っているようにすら見える。


 だけどマーズが言うように、引き続き店の改装が起こったりすることも、絶対に起こらないことでもないと思った。絶対に起こらないことではないけど、しかし、そんなに起こりやすいことでもない。そういう具合の印象だ。


 シフトが言う。「ところでサバイバルクラブの2人は、仲良くすればいいのに。自分たちで冊子を作る学生って、そこまで多くないだろうから、貴重な仲間同士で別行動するのはもったいないな」。


 次にマーズが言った。「貴重な仲間同士だからこそ、遠慮なく対立できるということもある。しかもあの2人は、決別せずに冊子作りを維持している。あれは別行動と言うより、適切な距離の取り方なんだと思う」。


 自分は何も言わなかった。どちらも納得できる考えだったし、もし片方が正解だったとしても、もう一方が不正解になるようなものではないと思った。カルラも自分と同様、特に何も言わなかった。


 シフトは、なんとなく話を続けた。「地球が大寒波に包まれるといっても、そんな大きなことが急に起こるものなのかな。たしかに、太陽や地球みたいな巨大なものにとっては、星の表面温度が100度上下することなんて、ちょっとしたブレなのかもしれないけど」。


「表面温度か」。カルラが言った。地球というのは、大きなかたまりの、うすい表面部分に山や海や大気がある。かたまり全体を100度変化させるエネルギー量に比べれば、表面だけを変化させる量はとても小さそうだ。そう思うと、なんだか今すぐにでも、その程度の大寒波や灼熱地獄が訪れてもおかしくない気がしてきた。

 


 実際、地球の歴史を考えれば、この何十億年の間に何度も冷えたり温まったりしているという。それが短期間に何度も起こったり、今すぐ起こるということは、やっぱりこれもまた、絶対に発生しないことではない。もしかしたら自分は「稀にしか起こらないけど、理屈としては起こってもおかしくないこと」について考えるのは好きな方かもしれない、と思った。