スノードーム / 香山哲

ある雑貨店の片隅に、古いスノードームが佇んでいる。 その中に住む者たちは、不安に駆られ、終末についての噂を交わしていた。 天空に、ある不穏な兆しがあらわれたのだ。 果たして「その時」は本当にやってくるのか? それはどんな風にやってくるのか?  小さな小さな世界の中で、静かに近づいてくる終末の記録。

コピー機

share!


 傘の学生が店に来た。前回帽子の学生が来てから、3週間ぐらい経っていた。店の前に自転車を停めて、店に入ると店主に一言、コピー機の使用を伝えて、コピー機に向かった。


 コピー機の前で、たすき掛けしていたカバンを下ろし、まずは服のポケットから小さな紙片を取り出してコピー機の操作盤の部分に置いた。紙片の長方形の右上の角が、操作盤に掘ってある浅い溝に沿うように置いた。そのあと、カバンからコピーする原稿を取り出した。十数枚程度の紙の束が、同じサイズのノートに挟まれていた。


 店のコピー機を使う人間たちは、みんな似たような雰囲気に見える。コピー機の周囲には広い作業スペースは無いし、使用者は立ったままの姿勢で機械を使う。快適とは言いにくい状況で操作する様子が、誰でも同じような感じに見えるのだった。


 また、これは人によって程度の差はあるが、コピー機を操作することは、そんなに簡単ではないらしい。インクや紙の事情で機械が止まり、使用者が店主に助けを求める場面を何度も見かけたことがある。さらに、コピー機たちには様々な機種が存在していて、それぞれ操作法や使い勝手に個性があるようだ。それらが同じ国の中どころか、同じ町の中に混在しているという。


 さきほどから傘の学生は、1枚目の原稿のコピーに苦戦していた。印刷されたものを手に取って確認したり、すでに機械にセットしたはずの原稿の位置を改めたり、順調そうではない様子で作業していた。しかしそれは、操作法についてのトラブルという感じではなさそうだった。


 学生たちは、生まれ育って生活を続ける中で色々な情報に触れ、その中の1つの出来事として偶然、大寒波に興味を持った。その大寒波をテーマにして冊子を作り、他人に何かを伝えるという作業には、いくつも難しいことがあるだろう。調べごと、知識の整理、記事作成や編集、印刷や配布、どの段階でも難しいことはある。学生であればなおさら、使える時間やお金も限られている。そこへさらに、コピー機が思ったように動かない、なんてことまで起こる。気に入らない印刷状態のまま冊子が完成してしまい、なんだかやる気が落ちる、というようなことだってあるだろう。


 そして、メンバーが抱える困難や不満によって、こういった活動はいつでも簡単に終わってしまうだろう。実際、学生たちはすでに、2人別々に記事を作るスタイルに移行している。今まで2人の学生がどれだけの冊子を作ってきたかは知らないけど、こういった活動が維持されるというのは、実は限られた貴重な時間なのかもしれない。


 しばらく試行錯誤していた傘の学生だったが、中断して店主に話しかけた。「あの、今は忙しいですか。コピーのことを聞きたいんですが……」。そう言われて店主は、レジのあるカウンターから出た。