次の日、客足が途切れて暇になった時間帯に店主は、消防車のおもちゃと一緒に来た箱を整理していた。箱の中には本もあれば、ペンやハサミのような文房具もあるようで、そのまま売れそうなものは売り場に並べていた。
売り場と言っても、この店は中古品ばかりの雑貨店なので、曖昧な分類で商品が並んでいる。服や本や食器類はそれぞれまとめて置かれている一方、靴ひもや分度器が同じスペースにぐちゃぐちゃに詰められていたりする。店主はそういう場所に、クレヨンとかビー玉とか、そういうものを次々入れていった。
その作業の途中、なぜか店主はカウンターを離れ、「準備中」のところへ来た。何かを探すように棚を見ていたが、その探し物は自分たちだった。このスノードームは棚の最前面に置かれていて、箱にも袋にも入れられていなかったので、店主は何も棚にあるものを動かしたりせずにこのスノードームを発見できた。
店主はこのスノードームを持ち上げ、レジのカウンターまで歩き戻っていった。スノードームの中では、自分たちが名前を付けたフレークたちが揺れで一斉に混ざり合った。みんな驚きながらも、黙って様子を窺った。
店主の歩みはカウンターのところで一度留まったが、スノードームはカウンターの上に置かれることなく、そのまま次の場所に持ち運ばれた。カウンターの向こうにあるコピー機をさらに通り過ぎ、服の売り場のほうに運ばれた。
一角に雑貨の並ぶ棚があって、そこに自分たちが置かれたのが分かった。店主はカウンターのほうに戻っていった。移動が終わり、スノードームの中でさっきまで舞っていたフレークたちが徐々に沈殿していくと、シフトが「あっ」と声を出した。「ほんとだ」とマーズが言った。自分たちが置かれた場所のすぐ隣に、自分たちと同じ型のスノードームがあった。似たタイプとかではなく、まったく同じ製品だった。だからこそ、店主も自分たちのことを思い出して隣に置いたんだろう。
唖然としながらマーズが「向こうも……驚いてるかなあ……」とつぶやいた。そしてカルラが「傷がある」と言った。みんなが「え!」と驚いて、隣のスノードームのてっぺんに注目した。このスノードームと同じような位置、ガラスのてっぺんに傷が付いていた。シフトは「本当だ、こっちの傷よりも長い気がする!」と言った。
たくさんの疑問が一気に起こったが、やっぱりまずは、傷のことについて意見を交わすことになった。みんなこれまでずっと、この不明な傷に心を乱されてきた。自分たちの安全にも関わるかもしれないこの傷について、他のことより優先して話すのは自然なことだった。
4者それぞれ色んな感じ方があるが、まずは事実を確認しあった。隣に同型のスノードームがある、ということ。自分たちを作った工場は小さくはなかったので、同じ店で同型の製品に出会うことはありうる、ということ。隣のスノードームにも自分たちのスノードームと似た傷がある、ということ。それは偶然かもしれないし、この型のスノードームの特性かもしれないし、スノードーム一般の特性かもしれない、ということ。……断定できないことが多いけど、何のどのあたりがどう分からないのかをみんなで確認することは、これから話し合う上で重要だ。
そうこう話している間にも、店主は箱に入った品々を出したり、それらを売り場に運んだりしている。カウンターの近くには、いくつか別の箱もあり、そちらの物も出し入れしているようだった。ガラスでできたもの、繊維が織られたもの、電源コードのようなものなどが各所に運ばれた。自分たちがさっきまで置かれていた「準備中」の場所にも、何かが運ばれていくのが見えた。