スノードーム / 香山哲

ある雑貨店の片隅に、古いスノードームが佇んでいる。 その中に住む者たちは、不安に駆られ、終末についての噂を交わしていた。 天空に、ある不穏な兆しがあらわれたのだ。 果たして「その時」は本当にやってくるのか? それはどんな風にやってくるのか?  小さな小さな世界の中で、静かに近づいてくる終末の記録。

個性

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 ふと、「地球のどこかには自分たちと同じようなスノードームがあるのだろうか?」ということが思い浮かんだ。亀裂を持ち、滅亡を予感しているスノードームがあるのだろうか、ということだ。もしあるとしたら、そのスノードームの中にも、慌てやすい者とか恐れにくい者とか、色々な気質を持つ人形やオブジェクトがいたりするのだろうか。



 自分たちはスノードームの中に、4人いる。自分、マーズ、シフト、カルラ。人間の世界の人間たちと比べると少ないけど、それでも4者4様、それなりに考えがバラけていて、お互いに「相手はこう考えているけど、自分はそうじゃないな」と他者によって自分の輪郭を強めたり、色んな影響を及ぼし合っている。他のスノードームの中でも、似たようなことが起こっているのだろうか。



 自分には、自分たちのスノードームだけが特別なスノードームだとは思えない。自分たちは、たくさん同じように作られるもののうちの1つだった。だから、他のスノードームでも同じようなことが起こっていても不思議ではない。



 ただ、それぞれのスノードームで、内部の雰囲気とかがすこしずつ違っているんじゃないかなと推測する。たとえば自分たちと全く同じスノードームが別の店にあっても、自分たちとは違う。その違いというのは、製造過程で生じる誤差ではなくて、長く過ごしていく時間による誤差のことだ。自分たちは、この店のこの棚に置かれて時間を過ごしてきて、その中で4人の関係性が積み重なってきた。日々みんなが発する言葉や、それに対する印象や反応は、偶然に選ばれていく。結果としては1つが選ばれるが、似たような候補が毎回現れているはずだ。何が選ばれるか、ある程度の範囲内では毎回偶然で、ゆらいでいる。そういうゆらぎが、何十万回も積み重なると変化をもたらし、それがスノードーム全体の個性になっている気がする。



 長い時間を通して積み重なってきた会話や思考の歴史が、今現在のあり方を決めている。この4人がバラバラの考えを持って、それを示しあった時、このスノードームが過ごしてきた歴史ならではの仕組みが働いて、この4人ならではの平均的な考え方に落ち着く。それが他の店にあるスノードームたちとは、違ったふうに起こると思う。



 今、滅亡に対して自分たちは、かなり落ち着いた雰囲気で向き合っていると感じる。いつも大体、シフトとマーズがうまい具合に異なった考えを示し合い、次にカルラがゆっくりと慎重なアイデアを示し、そして自分はみんなの考えを聞いてから考えを生み出すような性格だ。それが今回の滅亡についても作用していて、なんとなく最初から、想像や推測が加熱するよりも「いったん様子を見よう」という具合になったのだろう。偶然とも言えるし、こうしたパターンは「このスノードームの癖」と言えるかもしれない。



 天の亀裂は今もある。大きくなるかもしれないという不安を放ちつつ、大きくならずに毎日存在し続けている。